キャンプ場に到着し、ずっしりと重い黒鉄の鍋を焚き火台にセットする。薪の炎が鍋肌を舐め、油が馴染んだ鉄板に肉を乗せた瞬間、「ジュッ!」という力強い音が森に響き渡る。
テフロン加工のフライパンでは決して味わえない、この高揚感。
ただ焼くだけの行為を、極上のエンターテインメントに変えてくれるのがスキレットです。
手入れさえすれば、親から子へと受け継げるほどタフな道具。今回は、手に入れたばかりの無骨な鉄塊を、あなただけの一生モノの相棒へと進化させる最初の儀式と、失敗しない育て方についてご紹介します。
一生モノの相棒スキレットとは?厚みが作る旨味と開拓の歴史
なぜ、重くて手入れが必要なスキレットを、僕たちはわざわざキャンプに連れ出すのでしょうか。その答えは、現代の軽量な調理器具では出せない圧倒的な蓄熱性にあります。
スキレット(Skillet)とは、鋳鉄(キャストアイアン)で作られたフライパンのこと。
その最大の特徴は、金属の厚みが生み出すパワーです。一般的な薄いフライパンでは、冷たいステーキ肉を入れた瞬間に温度が下がってしまいがちです。しかし、熱をたっぷりと蓄えたスキレットは違います。肉を乗せても温度が下がらず、表面を一気に焼き固め、旨味たっぷりの肉汁を内側に閉じ込めることができるのです。
歴史を紐解けば、そのルーツはアメリカの西部開拓時代にまで遡ります。
荒野の過酷な環境下でラフに使え、焚き火の強い火力にもビクともしない頑丈さは、現代のキャンプシーンでも頼もしい限り。使い込むほどに油が馴染み、鈍く黒光りするブラックポットへと育っていく姿は、まるで革製品やデニムを育てるような喜びがあります。
面倒くさいを楽しさに変える。それがスキレットを持つということなのです。
儀式を楽しむ!最初のシーズニングで鉄鍋に命を吹き込む

新品のスキレットを手に入れたら、最初に行うのがシーズニング(慣らし)です。
これは、製造時に塗られたサビ止めワックスを落とし、代わりに新しい油を馴染ませて被膜を作る作業のこと。
一見手間に思えますが、研究熱心な方にとっては、まさにギアを自分色に染め上げる楽しい儀式の時間です。週末、好きな音楽でもかけながら、じっくりと鉄鍋と向き合ってみませんか?
まず、本体をお湯と洗剤を使ってゴシゴシと洗います。新品時にはサビ止めの工業用油やワックスが塗られているため、最初だけは洗剤を使ってこれらを完全に洗い流します。
洗い終わったら水気を拭き取り、火にかけて完全乾燥。ここからが本番です。
全体に食用油を薄く塗り込みます。内側だけでなく、外側や取っ手、裏側まで忘れずに。油を塗ったら再び火にかけ、煙が出るまで焼き付けます。この油を塗る→焼くという工程を数回繰り返すことで、油が酸化・重合し、表面に樹脂のような強固な被膜が形成されていきます。鉄が徐々に黒く艶めいてくる変化には、きっとワクワクするはずです。
仕上げに、野菜くず(ネギの青い部分やショウガの皮など)を炒めます。これは鉄特有の臭い消しと、油をさらに馴染ませるための重要な工程。野菜が真っ黒になるまで炒めたら捨てて、最後にお湯でさっと洗い、再度加熱して乾燥させれば完了です。
この手間を乗り越えたスキレットは、食材がくっつきにくく、サビにくい最強の調理器具へと生まれ変わっています。
失敗しないための使用と保管のコツ・急冷却は厳禁!
丹精込めてシーズニングしたスキレットも、扱い方を間違えると一瞬でダメにしてしまうことがあります。特に注意したいのが急激な温度変化(ヒートショック)です。
鋳鉄は熱に強い反面、急激な冷却には非常に脆い性質を持っています。
調理直後、アツアツのスキレットに冷たい水をジャーッとかけるのは自殺行為。急激な収縮により、最悪の場合パリンと割れてしまうことがあります。使用後は自然に手で触れるくらいまで冷めるのを待つか、お湯を使って洗うのが鉄則です。
また、普段のお手入れでは基本的に洗剤を使いません。せっかく育てた油膜(シーズニングの効果)を洗剤が分解してしまうからです。
タワシやササラを使い、お湯だけで汚れを落とすのが基本。もし焦げ付いても、水を張って沸騰させれば汚れは浮いてきます。
そして保管時。水分は鉄の大敵です。
洗った後は必ず火にかけて空焚きし、微細な水分まで完全に飛ばします。その後、熱いうちに薄く油(オリーブオイル等)を塗ってコーティング。新聞紙に包んで湿気の少ない場所で保管すれば完璧です。
手がかかる子ほど可愛いとはよく言ったもの。
黒く育ったスキレットで焼く次回のステーキや、グツグツとオイルが踊るアヒージョは、きっと家族を唸らせる格別の味になるはずです。道具を育てる過程そのものを、ぜひ楽しんでください。

